親父の話。実話ですねん
うちの父親は身内で唯一の霊感持ちで、たまにそういうのを見てるらしい。
親父が20代の頃、仕事のあとは毎日麻雀を打ち、夜11時には雀荘を出ていた。その帰り道、親父は車で国道を走っていたそうな。
だが、今日はなんかおかしい。深夜11時とはいえ、そこは国道。いつもなら対向車があってもいいはずなのだが、今日は一台もすれ違わないし、歩道にも誰も居ない。さらにいうと、何故か街路灯すら消えている。親父の周囲には人間がまったく居なかったのだ。おかしいとは思ったが、車がないぶんスムーズに走れると親父はそのままスピードを上げたそうな。
少し走ると、歩道に人影が見えた。親父はあまり気にしていなかったので、「誰かが居る」ぐらいにしか認識していなかった。そのため性別は判断出来なかったのだが、とにかく左の歩道に人が居たらしい。親父の車がその人の脇を過ぎようとした瞬間、その人間が飛び込んできた。
轢いた!と親父は思った。車を止め、すぐさま周囲を確認する親父。しかし道路にも車の下にも周囲の木々にも、その人は居なかった。そもそも轢いた衝撃もなかった。親父が轢いた、と思った人は居なかったのだ。
なんじゃろなあと思いながらも再び車に乗り込み、誰も居ない国道を進んだ。相変わらず街路灯は付かず、車も親父の車以外走っていない。
そろそろと車を走らせていると、視界の先に再び人影が見えた。犬を連れた女性が歩道に居る。その犬のリードが鎖で、妙にゴツくて気持ち悪かった、と親父は言っていた。車が犬を連れた女性を通り過ぎようとしたとき、その女性が飛び込んできた。
やっちまっただー!と再び停車させ、確認する親父。しかし誰も居ない。轢いてもいない。
親父もこれはおかしい、と思ったそうな。すぐさま車に乗り込み、アクセル全開でぶっ飛ばす親父。もう止まる気はなかったらしい。
歩道の向こうにまた人影が見えた。今度はしゃがみ込むサラリーマン風の男で、明らかに陰鬱な雰囲気だった。
また飛び込む、飛び込んでくるぞ!と親父は思いながらも車を飛ばした。案の定、親父の車に飛び込んでくる男。しかし親父は今回は車を止めなかった。轢いた衝撃もなかった。そのまま走り抜ける!
気付いたら、親父の車は家に付いていた。街路灯も付いている。安堵する親父。
時計を見ると、午前3時。いつもなら午前1時には着いているはずなのに、俺は2時間どこを走っていたんだろうな、と親父は思ったそうな。
おしまい